父からの電話
父から電話があり、現在住んでいるアパートを出て近くの高齢者住宅に引越すという報告を受けた。以前にわたしが提案したとおり、わたしが受取人になっていた生命保険は既に解約し、そのお金は今後の生活資金に充てるとのことだった。彼は電話口で「ありがとう」と繰り返していた。 わたしがまだ幼かった頃、父は勤務先の資金を使いこんだ上に借金を残して行方をくらました。その後も彼は借金を重ね、やがて両親は離婚した。幼少期の数年間以外、わたしは彼と共に暮らしたことがない。彼は確か二十年ほど前に現在の配偶者と再婚したが、飲酒癖やDVが原因で同居を拒否されている。わたしは彼の配偶者のことは殆ど何も知らない。 5年前の祖母の死後、相変わらず自滅的な言動を繰り返す父に、わたしは「いい加減にあなたは自分で自分を引き受けなければならない。先に死んだ家族という物語にどれだけ逃避しても、自分自身からは決して逃げることはできない。あなたは自死した自らの父親と似た道を選びたいのか?」と厳しく問うた。 そうして、新たに借金を作ろうとした彼を阻止し、彼が祖母から相続した不動産の売却を手伝い、新しい生活へ踏み出すよう促した。あの時…