もう何年も前のこと。極北の先住民族と彼らを取り巻く自然を大判カメラで撮影し続けているある写真家に、「なぜあなたはそんなにも極北に惹かれるのか」と尋ねたことがあった。どうして彼が身の危険すら冒してまで過酷な環境に出向くのか、その衝動の基にあるものが一体なんなのか、単純に興味を覚えたからだった。
彼は、おそらく彼自身も端的に言語化できるものではない自らの衝動についてなんとか説明しようとしてくれたが、最終的には「多分、僕は北方志向なんだよ」と言ったことをよく覚えている。
まるでその中に悠久の時が流れているような彼の素晴らしい写真作品はもちろんのこと、彼から聴いた先住民族の間で語り継がれる神話や古事も魅力的だった。また、彼自身が極北で味わったさまざまな体験も興味深いものだった。
わたしは以前から北方の画家や音楽家の作品に惹かれることが多かったが、自ら絵を描くようになってからは、その傾向はより強まった。やがては、北極圏を訪ねてみたい、その光と色、自然を見てみたいと思うようになった。また最近は、サーミ人の文化に興味を持ち始めている。
そうして今となっては、かつて写真家が自らについて言った「北方志向」というものが少しわかるような気がしている。