11年前、ポルトガルへの旅
約11年前、東京で派遣社員として貯金など不可能な倹約生活を送っていたわたしの元に、思いがけないお金が舞い込んだ。わたしはそれを全て費やして、生まれて初めての海外一人旅を実行した。行先はポルトガル。現地では、ポルトガルに長く住んでいる友人にお世話になった。 滞在は5、6日と短いものだったが、その間にわたしの中で大きな癒しと変容が始まった。それまでの人生で初めて、「自分は何者にもならなくていい、何者でもないままただ存在していてもいいのだ」と感じた。滞在最終日の夜、友人の車の中で、不意にラジオから流れてきたマイケル・ジャクソンの『Heal the World』を聴きながら、車窓越しに流れていくオレンジ色の街灯を眺めていたときの感覚を、今でもよく覚えている。 旅から戻った後、わたしは以前と同じ生活は送れなくなった。仕事、副業、所有物、人間関係、生活のほぼすべてが自己欺瞞であることに気づいて、鬱状態に陥った。やがて仕事を辞め、すべてを放棄し、野垂れ死にでいいと腹を括った。そうして思いがけない展開に運ばれてチェコにたどり着いた。 11年前のあのポルトガルへの旅は、わたしにとって、人生の大きな…