凍りついた海

夢の中で凍った海を眺めていた。遠くから波がいくつもこちら側に向かって寄せてきたが、すべて波の形を残したまま凍りついていった。不思議な光景だった。海の色はとても深く、辺りは薄暗かった。 わたしは集団で旅をしていたような気がする。一度は他の人たちと共に海を離れて建物の中に戻ったが、波が波の形のまま凍りつく光景をもう一度見たくて、一人で海に向かって歩いた。しかし、海はすっかり遠くなっていて、かなり歩かなければならなかった。わたしは工場や煙突、鉄塔が立ち並ぶ地域を歩いていた。…

11年前、ポルトガルへの旅

約11年前、東京で派遣社員として貯金など不可能な倹約生活を送っていたわたしの元に、思いがけないお金が舞い込んだ。わたしはそれを全て費やして、生まれて初めての海外一人旅を実行した。行先はポルトガル。現地では、ポルトガルに長く住んでいる友人にお世話になった。 滞在は5、6日と短いものだったが、その間にわたしの中で大きな癒しと変容が始まった。それまでの人生で初めて、「自分は何者にもならなくていい、何者でもないままただ存在していてもいいのだ」と感じた。滞在最終日の夜、友人の車の中で、不意にラジオから流れてきたマイケル・ジャクソンの『Heal the World』を聴きながら、車窓越しに流れていくオレンジ色の街灯を眺めていたときの感覚を、今でもよく覚えている。 旅から戻った後、わたしは以前と同じ生活は送れなくなった。仕事、副業、所有物、人間関係、生活のほぼすべてが自己欺瞞であることに気づいて、鬱状態に陥った。やがて仕事を辞め、すべてを放棄し、野垂れ死にでいいと腹を括った。そうして思いがけない展開に運ばれてチェコにたどり着いた。 11年前のあのポルトガルへの旅は、わたしにとって、人生の大きな…

春が来るたびに

毎年春が近づくにつれ、チェコに移住する直前、実家で母とさくらと一緒に暮らした数ヶ月(城の周りや桜並木を毎日一緒に歩いたあの日々)と、COVIDによるロックダウンで身動きが取れない中、母の死が確実に近づいているのを察知していた頃のことを思い出す。…

このよ

「ぼくたちはこんなところでいったいなにをしているのでしょうね」 「ぼくたち、ぬけだすことのできないわなにとらわれているようですね」 「いつかじょうはつするひまで、たえるしかないのでしょうか」 「きっといつかじょうはつするひまで」 「それまでぼくたち、なんとかやっていきましょう」 「なんとかやっていきましょう」…

父が暮らしている場所を訪ねる夢

夢の中で父が住んでいるらしい場所を訪れた。見たこともない建物で、玄関を開けるとすぐに部屋があり、玄関の左側には上階へと続く階段があった。階段は真っ白で、樹脂や陶器のような滑らかな素材でできていた。一番下の段は一見すると洋式トイレのような形をしていたが、トイレとして使われてはいないようだった。 階段からも上階からも人が暮らしている気配は感じられず、まるで別世界のようだった。しかし、玄関を入ってすぐの部屋にはテレビがあり、6缶パックのビールや新聞紙、雑誌などが散乱していて、生活感が漂っていた。父は風呂に入っているようで、シャワーの音が聞こえていた。 目が覚めてから、今日はちょうど彼岸の中日だと気づいた。昨年8月に亡くなった父が風呂に入っていたのは、そろそろ彼も地上の人格や個体性、物質的存在性を脱いで洗い落としている頃なのかもしれない。…

空を見上げて

一つの絵を描き終えて、次に何を描こうかとモチーフを探すと、いつも空の写真やイメージに行きつく。そうして毎日空を眺めては、空の絵を描いている。 東京で暮らしていた頃、ふと空を見上げて「毎日ただ空を眺めて過ごせたらいいのに」と呟いたら、隣にいた友人が「そのうちそれが現実になるよ」と言ったのを覚えている。そんな風に願っていたから、思いがけない流れに運ばれて、空が広くて雲が近く感じるこの地にたどり着いたのかもしれない。…

パンフレットの表紙絵と演奏会成功の報告

昨日開催された六甲フィルハーモニー管弦楽団の第56回定期演奏会は大成功だったとの報告をいただいた。パンフレットに絵を提供したわたしにとっても、大変嬉しい知らせだ。 次回演奏会にも絵を描かせてもらう。またイマジネーションと色彩を自由に羽ばたかせて描くつもりだ。 そして、ある人から、今回の演奏会のために描いた絵の原画を購入したいという申し出があった。思いもよらない申し出にとても驚いた。また新たにわたしが描いた絵のオーナーになってくださる方が現れて、とても嬉しい。…

月食を眺める夢

夢の中で月食を見上げていた。わたしは旅先にいて、確か幼友達が一緒にいた気がする。周辺には田畑のある西日本の田舎のような風景が広がっていた。空は夕焼けか、あるいは朝焼けのようにうっすらと赤く染まっていて、時間帯は夜ではなかった。しかし、わたしが見ていたのは日食ではなく、月食だった。 視界が建物や木々によって少し遮られていたので、わたしは畦道を小走りで通り過ぎ、空が開けた場所へ向かった。コーラルからオレンジへとグラデーションを描く空に、左下の部分が欠けた月が浮かんでいた。幻想的な美しい眺めだった。やがて近くの建物からたくさんの学生たちが出てきて、賑やかに月を見上げ始めた。どうやらその建物は、合宿所か何かのようだった。…