コッコちゃん、サーミランドヘ

私は来週末からフィンランドの北の端、北極圏に広がるサーミランド(一般的にはラップランドと呼ばれる地域だが、私は「サーミの地」と呼びたい)へ行く予定だ。夏を迎えるツンドラの荒野、一晩中太陽が沈まない白夜の空、人間の数よりも遥かに多く存在するトナカイたちとの遭遇、そして「太陽と風の民」と呼ばれるサーミの歴史と文化・・・何もかもが楽しみだ。 サーミランドの最北に位置するウツヨキ(Utsjoki)滞在中には、Paistunturi原生地域の標識のない登山道を歩くガイド付トレッキングツアーに申し込もうと考えている。ツアー催行者がサーミのトナカイ飼いであることは認識していたが、彼らの元にいる何百頭ものトナカイたちの中に、2024年のキング・トナカイであるKultalaもいることを初めて知った。以前、サーミランドで毎年開催されるトナカイレースについて知った時、その名前の響きに惹かれてKultala(黄金郷という意味)のファンになった私は、今年のレースでも彼を応援していた。最終的に今年彼は2位に終わってしまったのだけれど。 催行者とのやり取りの中で、フィンランドでは夏至祭の日に「Kokko」と呼ば…

「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」

幼友達が、姫路文学館で開催されている特別展「没後10年 作家 車谷長吉展」へ行ってきたと報告してくれた。私は彼女に、もし時間があれば、この特別展の図録を買ってきてほしいと依頼してあったのだ。密度の濃い、素晴らしい展示だったと聞いた。出来ることなら私も行きたいのだが、開催期間中に日本へ行けそうにはないのが残念だ。 展示を見て、車谷長吉の作品にも興味を抱き始めたという彼女に、私が繰り返し読んでいるいくつかの作品を紹介した。そして、随分前に読んで以来ずっと私の中で生き続けている彼の言葉についても話した。 「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」 これは、朝日新聞の連載「悩みのるつぼ」に寄せられたある相談に対し、彼が回答の中で語った言葉だ。私自身、自死は解決をもたらさないことを痛感したのち、自らの醜さや暴力性と自己欺瞞に向き合わざるを得なくなり、やがて母や家族を含む多くの関係を一旦投げ捨て、仕事も肩書きもすべて放棄して、野垂れ死にを覚悟した後、ようやく人生がはじまった。だから、彼のこの言葉は自分事としてよくよくわかる。 この言葉を初めて目にした時、私はまだすべてを放棄すること、即ち、…

Bicycle ride

夢でまた自転車に乗っていた。夢の中では足で自転車を漕いでいる感覚はなく、実際の自転車よりもずっと速くなめらかに進む。わたしはまず駅のようなところにいた。複数の路線が交差するような大きな駅だった。知らない女性が笑顔で近づいてきて「牛乳は要りませんか」と言われたが、要らないと断った。 わたしは電車に乗るつもりだったが、自分が自転車を運んでいることに気づき、乗車はあきらめて自転車で向かうことにした。といってもどこへ向かっていたのかはわからない。そこはまったく知らない場所だったけれど、夢の中のわたしはその場所を知っているようだった。 高い塀に囲まれた大きな古い屋敷が建ち並ぶ路地を自転車で走った。周囲は雨が降っていたが、わたしは濡れることはなかった。どの屋敷にも、古代の植物のような巨大な果樹があり、塀から高く伸びた桃色の太い幹や枝にたくさんの大きな桃色の実がなっているのが見えた。 やがて大きな川にたどり着いた。そのまま川沿いに進もうかと思ったが、大きな石がごろごろしているその道は走りにくそうだったので、来た道を少し戻って別のルートを進んだ。緩やかなカーブを進むと、青く澄んだ水が流れる浅瀬が…

向かいの建物にあるヨーロッパアマツバメの巣について

昨日の日没直後、足場に囲まれたままの向かいの建物の屋根の下に、一羽のヨーロッパアマツバメが戻っていくのを目撃した。どうやらまだ同じ巣に留まっているようで安心した。市役所の担当者にもすぐにこのことを報告した。彼らはこの件に関してかなり熱心に働いてくれているようで、丁寧な説明とやり取りが続いている。 この建物は、壁の一部(巣がある箇所の反対側)が剥がれていて危険なため、早急な修繕が必要らしい。市の職員だけでなく、南ボヘミア州庁舎の自然環境・野生生物保護を担当する部署の鳥類学者も、この件に携わってくれるそうだ。 市の職員からは、この建物にもアマツバメの巣があることを知らせたことに対して感謝された。というのも、彼らはちょうど、この市と周辺地域にあるアマツバメの巣の再調査を行っている最中だったらしい。自然環境と野生生物保護に関する彼らの真摯な取り組みを知ることができて、わたしたちも嬉しい。 今年もアフリカ大陸からはるばる戻ってきて既に営巣しているアマツバメたちが、無事に繁殖できることを祈るばかりだ。…

今年も戻ってきたヨーロッパアマツバメ

数日前にヨーロッパアマツバメが入っていくのを目撃し、今年も戻ってきて巣作りをしていると思われていた(ヨーロッパアマツバメたちは基本的に毎年同じ場所で営巣・繁殖する)向かいの建物の角に、突然工事の足場が組まれ、巣がある部分も鉄パイプで囲まれてしまった。ヨーロッパアマツバメは野生動物保護の対象となっているはずで、もし建物に巣がある場合には、営巣・繁殖の時期にはその部分を足場や安全ネットで覆うような工事をしてはならない等の法律があるはずだが、どうやら建物の主は巣の存在に気づいていないか、あるいは法律を無視しているようだ。 足場が組まれたのを発見してすぐ、市の担当部署に報告をしたが、まだ返信はない。そして、今はいよいよ足場全体を覆う安全ネットがかけられようとしている。昨日はほぼ一日中巣がある部分を観察していたが、数日前まで頻繁に出入りしていたヨーロッパアマツバメの姿は一度も見ることができなかった。もしかすると彼らは危険を感じて営巣をあきらめてしまったのかもしれない。 なんともやるせなくて、出来ることなら今すぐに足場を解体したいぐらいの憤りを覚えているが、何もできない辛さをせめて言葉にするた…

絵が描かせてくれる

忙しさとストレスのためか心身の不調が続いて、しばらく絵を描けずにいたけれど、ようやくまた描ける状態と状況に戻ってきた。 毎回毎回「どうやって(これを)描くんだろう」と半ば疑問に思いながら描き始めるが、ひとたび描き始めると、やがては必ず描き終える。そのたびに、自分が絵を描いているのではなく、絵に描かせてもらっているのだと感じる。 だから、わたしに出来ること、わたしがやるべきことは、絵が描かせてくれるように、自分の心身の世話をし、いたわり、整え続けることだ。…

変化する身体、加速する時、広がる精神

50歳になり、ほぼ毎日心身のどこかに不調や不快感を抱え、PMSや月経も辛さが増して、以前と同じように動いたり働いたりもできず、出来ることは著しく減少し、明らかに更年期を実感している。しかし、こうして体の変化にあわせて減速あるいは停止する時期もまた必要なのだろうと思っている。 減らし、手放し、あきらめ、停止することの恵みとでもいうのだろうか。心身の不快感や痛みは確かに辛いが、多くのことに気づくきっかけにもなるし、内面的にはよりシンプルに、より明瞭になっていくのを感じている。 年とともに月日の流れはますます加速し、残された時間など瞬く間に過ぎることを想像すると、自分の心身に不要な負担やストレスをかけるようなことにかかわっている暇はない。肉体的な制限が増して、できることが減れば減るほど、この限りある時間の中で自分が本当にやりたいことは、より明確になっていく。…