チェコにおけるマスク着用の義務化とCOVID-19感染拡大抑制効果について
「わたしのマスクはあなたを守り、あなたのマスクはわたしを守る(My face mask protects you, your face mask protects me)」。
チェコ政府は非常事態宣言後、すぐにマスク着用の義務化を発令した(先に導入していたスロバキアに続いた)が、その頃には既に市場のマスクは不足し、どこにも売られていなかった。しかし、チェコの人々は政府からの供給を待つことなく即座に行動し、あっという間に国民全員に十分な数の手作りマスクを作り上げた。人々の判断と行動は速かった。「黄金の手を持つチェコ人」という言葉があるそうだが、チェコには「DIY」に長けた人が多い。共産主義時代に多くのものを手作り/修理しなければならなかった世代にとっては、何でも自分でやるのが当たり前だという話も聞いた。
チェコ国内に複数の大企業を有する”富豪”のチェコ現首相は、決して信頼できるリーダーとは言えず、むしろ汚職疑惑などで常に多くの批判を浴びている人物だ。チェコの多くの人々はそんなことはわかっていて、政府からの供給を待つことも期待することもなく、自分たちで動き始めた。「マスクを作りながらでも政府批判はできる」というわけだ。
チェコでCOVID-19の感染拡大が比較的緩やかに抑えられているのは、マスク着用義務化の効果だけでなく、こうした人々の自主的な行動の影響もあるのではないか。世界で2番目に無神論者が多いチェコの人々のタフな独立心と連帯力は、数々の支配と侵略を受けた歴史の中で培われたのかもしれない。ナチスの司令官ハイドリヒは、チェコの人々を「笑う野獣」と称したそうだ。知人は「わたしたちチェコ人にとって最高の褒め言葉だ」と言っていた。COVID-19による非常事態の中で、「笑う野獣たち」の優れた危機管理能力と柔軟な逞しさを目の当たりにしている。