日本に帰国する前から、鳥が人の身体から一羽ずつ羽ばたいていくイメージが繰り返し頭の中に浮かび続けていた。終末期のせん妄がはじまった母が、突然天井を指さして「あんなところに鳥がおる」と言ったことがあった。「鳥、飛んでる?」「ううん」「じゃあ、そこにとまってるんやね」と言葉を交わしながら、わたしは彼女が見ただろうビジョンを共に味わった。あの体験を通してわたしは、目には見えないところ、形にはならないところで、彼女と響きあっているのを感じた。
ささやかな出来事だったけれど、母の看取りの中で最も印象に残っていること。