母が飼っていた柴犬”さくら”は、同じ建物内で暮らしている伯父家族が世話をすることになった。一時はわたしがチェコへ連れて行くことで話が纏まり、手順を調べたり、犬を飼える家を探したりもしていたが、母のパートナーや伯父家族の意向と、さくらの年齢と様子から、多分この場所に残る方がいいだろうと判断した。
母の生前、さくらは夕方の散歩を終えた後は、2階にある母と母のパートナーが暮らす家の中で夜を過ごしていたが、今後は昼も夜も1階のガレージ内にある犬小屋で過ごすことになった。初めて彼女を屋外で過ごさせた夜はかなり心配したが、どうやら彼女は状況を察して、変化を受け入れているように見える。
以前は一時帰国するたびに、毎日散歩に連れて行き、シャンプーをしたり、犬小屋や身の回りのものをきれいにしたりと、あれこれ世話をしてきたが、伯父家族に世話をしてもらうことが決まってからは、さくら自身の混乱を避けるためにも、わたしは彼女にあまり手をかけないようにしている。
それでも彼女は、わたしを見かけると静かに近づいてきて、わたしの足元に座り込み、ぴたりと身体を寄せてくる。わたしも彼女の傍にしゃがみこんで、何も言わずに静かに彼女の背中を何度も撫でる。彼女とは、言葉のやり取りが無い分、言葉を超えたたくさんのことをシェアしている。そんな気がする。