母との思い出

母との思い出

三年前のある春の日、母とともに犬の散歩に出かけた。桜の花びらが舞い散る中、濠沿いの草道を歩く母の後ろ姿を眺めがら、いつかこんな当たり前の情景を懐かしく思い出す日が来るのだろうと思った。一昨夜、急にあの日のことを思い出して、わたしは泣いた。

一人っ子のわたしとシングルマザーの母は、以前は典型的な共依存関係にあった。わたしは母から距離を置くために、大学進学と同時に逃げるように故郷を離れた。それから二十四年を経て、わたしはふたたび母とともに暮らした。たった数ヶ月のことだが、あれは貴重な時間だった。わたしたちはやっと母娘という立場を超えて、互いの存在を認めあうことができた。

昨年、まだ母が癌を発症する前のこと。わたしの一時帰国中に母のパートナーが入院した。そして、三十年以上ぶりに母と二人だけで数日ほど暮らした。思いがけずやってきた静かな日々に、わたしも母もただ安心して寛いでいた。思えばあれは、絶妙なタイミングで与えられた贈り物のような時間だった。

次にわたしが日本へ帰国できるのはいつになるのかまったくわからないし、果たしてその日が来るかどうかも定かでない。昨年の秋に大手術を受け、現在も化学療法を続けている母が、それまで無事でいてくれることを祈るばかりだ。どうか生き延びてほしい。

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