まっくろな円

とっぷりと暮れた夜の空に
‌まっくろな円が浮かんでいる
‌‌ああ月だと思ったけれど
よく見れば光の炎に包まれている
‌‌どうやら皆既日食らしい‌
‌その下にはまんまるの月が
‌‌ぽっかりという風に浮かんでいる

いよいよ見に行かねばと思い
‌‌いそいそと靴を履く
‌‌すっかり小さくなった犬が
‌‌足元を走り回っている‌
‌おかあさんがそばにいたけれど
‌‌死んでしまって話ができない
ひとりで外へ駆け出した

空気がみっちりつまっているから
‌‌かきわけるようにゆっくり歩く
‌‌まっくろな円は光をまとって
‌‌近づいたり遠ざかったりする‌‌
皆既日食と満月が並ぶなんて
‌‌月が二つになったのだろうか
‌‌ここは別の惑星かもしれない

‌‌‌‌ぐんと身体が縦に伸びる
‌‌強い力にひっぱられる
‌ちぎれそうなほど細長くなって
‌‌いつしか光の筋になる
‌‌皆既日食が近づいてくる
満月をひらりと飛び超えて
まっくろな円に吸い込まれる

鍋が割れる音で目が覚めた