日本からチェコに戻って三日目、まだまだ蓄積した肉体疲労からの回復途中で休むこと以外何もできていないけれど、精神的には以前と違って重さはまったくない。
振り返ると、2020年夏に日本で母の死を看取ってからの数年間、わたしは云わば長い鬱状態にあったのだと思う。程度の波はあったものの、シャワーや歯磨き等の基本的な生活動作すら困難な時期も多かった。それが、今年3月頃から厚い雲が晴れるのように心身が軽くなり、生活に困難を感じることもなくなって、何をするのも楽になった。
2020年夏に母を実家で看取り、膨大な量の死後事務と遺品整理を一人で片付けて、さくらを連れてチェコへ戻ってきた後、コロナ禍ということもあって、わたしは引きこもり状態になった。誰にも会いたくなくて、外に出るのが億劫で仕方なく、さくらの散歩にすら行けない日も多かった。Vには本当によく助けてもらった。
2023年、母から相続した不動産の譲渡が完了し、母の納骨を終えてチェコに戻った直後に、さくらが突然旅立った。わたしはしばらく完全な鬱状態(悲嘆状態)に陥った。数ヶ月を経て、少し動き出せるようになり、パステル画を通じて出逢った画家を訪ねてブルターニュに滞在していた間に、今度は母の内縁の夫が急死した。
そうしてまたわたしは日本で膨大な量の遺品整理を担い、金銭と不動産をめぐって母と長年揉め続けていた親族に母方の全ての不動産を明け渡すことを決めた。対話すら成立しない彼らと交渉を重ねて消耗するのはもう懲り懲りだったし、精神的負担でしかない繋がりを一刻も早く断ちたかった。
出来るだけのことを終えてチェコに戻った後、疲れ切っていたわたしは再び鬱状態に陥った。今年1月にフィンランドへ出かけたのも、普段の生活とは異なる環境に身を置き、好きな画家の作品に触れて、心身を養いたかったからだ。その後、少しずつ絵を描いているうちに、3月頃から心身の状態が明らかに軽くなっていることに気づいた。あらゆる行動・活動が楽になり、外出も苦にならなくなった。
こうして書き出してみると、2020年以降というか、母の癌治療が始まった2019年以降の状況は本当に大変だった。精神的なストレスはもちろんのこと、やらなければならないことが大量にあり、肉体的な負担も大きかった。常に立場と役割に追われて疲れていた。長い鬱状態に陥ったのも当然のことだったと思う。
そして、今年8月には実父が亡くなった。こうして、この4年の間に直接の家族が全員亡くなり、今回の日本滞在中には、残っていた全ての財産を放棄あるいは手放す手続きを終えた。我ながらここまで本当によくやったと思う。
底なしの精神力を発揮して役割を担う時が終わり、長年の重荷から完全に解放されて、やっと心底楽になった。これでようやくわたしは自分に専念できる。