「死んだのだから身体はないよ」と母に言う夢

夢の中で、目の前にあったテレビの電源が突然入り、触れてもいないのにチャンネルがころころ変わって画面がせわしなく切り替わった。わたしは、何かしら超常現象が起きているんだなと思いながら部屋を出た。すると、そこは今はもう存在しない以前の実家の2階だった。 短い廊下の途中にある以前母が使っていた部屋に、祖母と母がいた。二人とも顔と存在がぼやけていた。祖母は座卓の脇に座り込んで、少し困っている様子だった。半裸でベッドの中にいた母が「寝不足でしんどい」と不機嫌な様子で訴えてきた。わたしは「お母さんはもう死んだから身体はないんだよ、だからしんどいはずはないよ」と言った。すると、母は「あ、そうか」と気づいたようだったが、まだ少し不服そうだった。 そこで、隣の部屋にいたパートナーがくしゃみをするのが聞こえて目が覚めた。 12時間ほど眠っていくつも夢を見た。まるで夢の中で何日間も過ごしていたような感じがする。昭和の雰囲気が残る古い雑居ビルの中を歩いていた場面を思い出す。全体的に紫がかっていた。目が覚めた後にも、寝室全体に異世界めいた気配が漂っていた。…

まっくろな円

とっぷりと暮れた夜の空に ‌まっくろな円が浮かんでいる ‌‌ああ月だと思ったけれど よく見れば光の炎に包まれている ‌‌どうやら皆既日食らしい‌ ‌その下にはまんまるの月が ‌‌ぽっかりという風に浮かんでいる いよいよ見に行かねばと思い ‌‌いそいそと靴を履く ‌‌すっかり小さくなった犬が ‌‌足元を走り回っている‌ ‌おかあさんがそばにいたけれど ‌‌死んでしまって話ができない ひとりで外へ駆け出した 空気がみっちりつまっているから ‌‌かきわけるようにゆっくり歩く ‌‌まっくろな円は光をまとって ‌‌近づいたり遠ざかったりする‌‌ 皆既日食と満月が並ぶなんて ‌‌月が二つになったのだろうか ‌‌ここは別の惑星かもしれない ‌‌‌‌ぐんと身体が縦に伸びる ‌‌強い力にひっぱられる ‌ちぎれそうなほど細長くなって ‌‌いつしか光の筋になる ‌‌皆既日食が近づいてくる 満月をひらりと飛び超えて まっくろな円に吸い込まれる 鍋が割れる音で目が覚めた…

「自分がない」と人は暴力的になる

一昨日、父が酒に酔った状態で電話をかけてきた。「どうしたの?」と尋ねると、彼は「あんたが何度も何度もうんちゃらかんちゃら、それで心配して電話したんや!」と捲し立てるように言ったが、わたしには聞き取ることができなかった。何度尋ねても彼の言うことはよく分からなくて、会話にならなかった。 「酔っているよね?何を言っているか分からないのだけれど、『何度も何度もわたしが何かを言った』というのは事実ではないし、それはあなたの記憶違いではないの?」と冷静に尋ねたところ、父は「そうか、そうか」と少し正気を取り戻したようではあったが、その後もやはり会話はほとんど成立しなかった。 相変わらず、わたしの感情はまったく動かなかった。ただ、父はやはり「自分がない状態」だということがよくわかった。彼は、誰かとの関係や、過去や思い出といった「おはなし」に閉じ籠ったまま自分を持たずに生きている。自分がない彼は、当然ながら他者との境界も曖昧なので、強烈に依存的で暴力的だ。 自分を持たずに立場や役割を生きてシステム化すると、人は依存的かつ暴力的になる。そして、その暴力は自分と他者の両方へ向かう。自分がないのはとても…