人との対話の中で、自分がまたもや人生の大きな転換期の最中にあると話した後、過去10年ほどの出来事を振り返り、10年前には現在の自分の生活など想像もできなかったと改めて思った。10年前、わたしは東京で派遣社員として働きながら暮らしていて、海外旅行もしたことがなかったし、絵を描くことなど考えたこともなかった。
2014年11月、思わぬところからもたらされた資金を使い、長年現地で暮らしている友人を頼ってポルトガルを訪れた。思えばあれがはじまりだった。その旅の中でわたしは、「自分はこれまで一体何をしていたのだろう、なぜ社会で生き残らねばならないと思いこんでこんなにも苦しんでいるのだろう」と思い至った。
旅から戻った後の展開は坂道を転がるようだった。身の回りのあらゆるものが嘘(自己欺瞞)ばかりだと気づき、モノも、人間関係も、仕事も手放した。実際のところ、鬱状態に陥って仕事には行けなくなった。文字通りその日に着るものが見つからない状態になるまで、ひたすら断捨離をした。10ヶ月後には仕事を辞め、少しでも本望ではないことは一切やらない、それでダメなら野垂れ死にすればいいと覚悟した。
30代の頃には、自分の人生は40歳からようやく始まるだろうと理由もなく感じていたが、確かにその通りだった。2015年、40歳の時に、それまでの生活(人生)のすべてを放棄した直後、思いがけない出逢いと展開に運ばれて弾き出されるように日本を離れ、あっという間にチェコに漂着した。そうして現在もこの地でこのように暮らしている。
2022年、わたしは突然絵を描き始めた。まったくもって唐突な衝動だった。昨年夏以降は絵を描くことがますます生活の中心となり、絵を通して出逢った人たちとの交流も増えた。先月、ある言葉がふと頭に浮かんだので、今はそれをテーマにしたシリーズを作っている。
この数年の間に日本にいた家族はすべて亡くなり、あと幾つかの手続きが完了すれば、日本に残るものは一切なくなる。時を同じくして、わたしは、4年前から暮らしている自宅の購入を決意した。そしてまた、絵を描くことを通して、人生の新たな章が始まりつつある。終わりとはじまりが同時に起きているのを実感している。