20年前の記憶―初めて人から助けられたと感じた体験

かれこれ20年近く前のことを不意に思い出した。

ある日、鳩尾に鋭い痛みを感じるようになった。当時わたしは日雇いの仕事でかろうじて食いつないでおり、健康保険には加入できていなかった。公的補助などの知識はなく、過去の虐待経験に基づく恐怖によって家族からは逃げており、どこにも助けを求めることができなかった。

しかし、日に日に痛みは増し、やがて歩くのも苦痛なほどになった。そろりそろりと歩いても、振動が鳩尾に響いて激しく痛んだ。

当時は確か後に元夫となる人と付き合っていたが、なぜか彼にも助けを求めることはできなかった(もしくは的確な助けは得られなかった)。そんな状況の中、彼の部屋にあったPCから時々参加していたチャット部屋を覗くと、管理人の女性だけがオンラインだった。

わたしは彼女に自分の状態を話した。すると、同じ市内に住んでいた彼女はすぐに車で駆けつけて、わたしを区役所へ連れていき、保険加入の手続きをさせてくれた。そこでわたしは初めて、低収入者には保険料の軽減制度があることを知った(今思うと、当時のわたしは住民登録もしていなかったかもしれない)。

あれは、わたしが初めて人から確かに助けられたと実感した出来事だった。車の中で感謝を述べると同時に謝りながら笑顔を作るわたしに対し、彼女は「無理に笑わなくていいし、謝る必要はない」と言った。

その後、その日のうちだったか後日だったかは忘れてしまったが、医師による診察と検査を受けた。しかし、その時点で既に痛みは治まっていた。医師からは、十二指腸潰瘍が自然治癒したのではないかと言われた。彼女の存在と助けによって、わたしの心身は安堵し癒されたのかもしれない。