何かに懐かしさを感じたり、誰かやどこかを恋しく思うときというのは、実際には、その人との関係の中やその場所で味わった自分自身の内面の状態を思い出している。感情は、他者や場所など自分の外側にあるものに属するのではなく、常に自分の中で回帰するものだ。究極的には、物理的な存在や場所は、感情・感覚を呼び起こすきっかけでしかない。このことに気づいているかいないかによって、自分と自分の外側にあるものとの関係はまったく違ったものになる。
物理的な存在や場所といった形あるものを通じて形のないものを味わい、同時に、形のないものを通して形あるものを見ている。それはまた、自分の内側と外側の絶え間ない循環でもあり、この流れこそが生きている実感なのだろうと思う。