溶かした鉛を水に流し込んで固まったその形から運勢を占う「Lití olova」を初めて体験した。熱されて液体化した鉛は、水に落とすとジュっという音とともに一瞬で固まった。水の中から掬いあげた塊を目にしてすぐ浮かんだのは、ミステリアスな船のイメージと難破船という言葉だった。共にいた中の一人からは「幽霊船フライング・ダッチマンみたいだ」と言われた。別の人は「龍のようだ」と言った。きっと船であり龍でもあるのだろう。自宅に帰った後も何度も手に取り、フライング・ダッチマンについて調べながら、カノープスを思った。そして、ギリシャ神話に登場するアルゴー船のイメージを描いた。
母を看取り、膨大な量の死後事務と遺品整理に取り組んだ日々は、物質界という牢獄に閉じ込められたかのようだった。日本滞在中はずっと睡眠不足で夢を殆ど見られなかった。二度目の日本行きの前には身体が拒絶反応を示すほどストレスを感じていた。しかし今日はっきりとその時間が過ぎたのを実感した。唐突に招かれた先で、火で熱した鉛を水に落とし、できあがった幽霊船を手に取りながら、カノープスを呼んだ。そうして、夢が現実を浸食するあの感覚が戻ってきたのを感じた。そうだ、そうだ、これだよ。