水鏡

10年ほど前から、わたしは眠っている間に見た夢を時々書き記すようになった。あの頃わたしはよく夢の中で深い森に囲まれた静かな湖を見ていた。空にはいつも大きな満月が浮かんでいて、水面はその光を映していた。

当時、自分の名前と大まかな自己紹介を伝えるだけでインスピレーションに基づく「あなただけの絵」を描いてくれる人に絵を依頼したことがあった。やがて『水鏡』と題された小さな抽象画が届いた。淡い青緑色が柔らかなグラデーションを描くその絵は、まるで画面そのものが中心部からふわりと光っているようだった。

あの絵を受け取ってから、わたしはますます水面の夢を見るようになった。そうするうちに、自分の身体の中、ちょうど鳩尾あたりに、絵の中の色に似た水面を感じるようにもなった。今でも意識をそこへ向けると、淡い青緑色をした境目のない静かな水鏡が存在しているのを感じる。

わたしは、この水面こそが自分の本体だと思っている。そういえば、『水鏡』を描いてくれた人は、絵は依頼主の本質を現していると言っていた。